★社員ブログ

好きに無邪気な姿は、かっこいいのだ。

2021.11.19

人間っておもしろい! だって、みんな違うから。有名な偉人にも、身近な人にも、微笑ましくも尊敬できる、その人なりのエピソードに溢れています。印象的な「異人奇人」のエピソードを、毎回違う投稿者に語ってもらう本連載。第一弾の投稿者は、自らの父について語ります。

今回の投稿者
サンセリテ編集室ライター
北 堅太

私の父は建築設計士です。そして、設計士であるより以前に、何よりも、建築好きです。

そんな父に連れられて、子どもの頃はよく美術館に博物館、あるいは水族館なんかによく行きました。幼い私の興味はもっぱら恐竜や考古学だったので、夏休みになると恐竜展やエジプト展に連れていってもらった思い出があります。

展覧会での私は、当然、展示されているティラノサウルスの骨格標本やミイラに目がいきます。でも父が興味を持つのは、私とは違うところ。何やら、しきりに壁を叩く父。

どんな資材を使っているのか、壁の中に柱が通っているのか、それとも支柱の通っていない、ただの間仕切りとしての壁なのか、手触りや音で判断しているんです。

出かけの父に欠かせないアイテムがふたつあって、巻尺とカメラです。あらゆるものの長さ、距離をとにかく測らずにいられない。天井近くの構造や窓の並び、床のパターンから扉の位置、美しい階段、手すりのディテールなど、あらゆるものを写真に収めずにはいられない。

まあ美術館、博物館、水族館にカメラを持ち込む人は多いですよね。みんな展示物や魚を撮りたい。あるいは展示物や魚に喜ぶ我が子の姿を撮りたい。でも、特に企画展示などだと撮影禁止も多いじゃないですか。みんなお目当ての品を撮りたい気持ちを我慢している中、父は内部設計を撮るのを我慢しているわけです。でも巻尺は禁止されていないですから、カメラが使えない時は巻尺一辺倒。いずれ父にとっては楽しい建物探訪です。

こういう普通の巻尺です。父は「メジャー」と呼んでいます。

長じてくると、そんな父と一緒に出かけるのがイヤになってきます。いや、一緒に旅行に行ったりちょっと出かけたりするのは構わないんですが、巻尺やカメラを取り出した父に付き合うのは結構大変です。

まず、歩みが遅くなります。うちの家系は父以外みんな、せっかちなので、「パパ遅い」「おいていくよ」と。そんな愚痴が家族から漏れ出します。

歩みが遅いのはまだ我慢できるのですが、「一緒にいるととにかく恥ずかしい」という悩みもあります。はたから見たら奇怪な動きを取るこの人物と、同行者と思われたくない。家族と思われたくない。

美術館、博物館、水族館ならまだいいんです。駅とか、ホテルとか、空港とか、映画館とか、役所とか、マンションとか、アパートとか。そんなに何枚も写真が要りますか、普通。

さらにさらに、美術館だろうが映画館だろうが、上から下までその建物の全部に興味がある父は、男子トイレとかでもそういう行動をとろうとするんですよ。さすがにモラルが危ない。一緒にいる時は仲間だと思われる恥ずかしさを我慢して、積極的に止めます。

警備員さんにも怪しまれますよね。なんだなんだ盗みの下準備か。完全に不審者です。

そんな父ですが、私も大人になった今、ちょっと見方が変わりました。

大人になっても自分の好きに忠実で、人の目は気にしない。もちろん迷惑はかけちゃいないですし。父は、「好きなことしーよう」「人の目なんて無視無視」なんてことも思っちゃいないと思います。無意識で、好きを実行しているんだと思います。

憧れます。いいなあと。お金のかからない趣味だし、しかも仕事につながっている。行動は確かに奇妙キテレツですけれど、まっすぐな父のように、私もなりたいなあと。

なんたって、建物を前にした時の、父の目は綺麗ですよ。

この記事を書いた人

北 堅太

サンセリテ編集室ライター。埼玉生まれ埼玉育ち。仕事は広告関係。本を読んだり、映画を見たり、音楽を聞いたりするのが好き。最近の悩みは、部屋中に溜まったものの片付け。アトピー克服を目標に、特に食生活や睡眠習慣に気をつけている。夜ご飯の納豆とヨーグルトは欠かせない!

この人の記事をもっと読む
この連載をもっと読む