人生交差点
直感派な、フレンチシェフのお話。後編
2022.02.27
誰にでも行きつけのお店がある。でも、そこで働くシェフの人生まで深くは知らない。サンセリテ編集部が行きつけのフレンチレストラン「Lovey(ラヴィ)」もそんなお店のひとつ。オーナーの安田さんは、あまり多くを語らない「ザ・職人」な人。一本気な姿に、どんな過去が詰まっているんだろう?安田さんの人生、味わわせてください!
美味しいものと健康はイコール。
サンセリテ札幌との出会いは、社長の山本さんが長くお客様として来てくださっていたこと。詳しくお聞きしたら、うちの店の近くで健康食品のメーカーを経営していると知り、すごいなぁと感心しました。
最近、美味しいものと健康はイコールだと思うようになったんです。たとえば、血糖値が高めの方に高カロリーな食事を出しては体によくないですし、食事のあと、精神的にも満足感を得られないのではないでしょうか。コース料理のいちばん最初に、野菜のテリーヌを出しているのですが、食べる順序と栄養素の吸収を考えてそうしています。何度も来てくださっているお客様には、体質や体調に寄り添って、美味しくて、健康にも良い料理をお出しできたらと考えているんです。
シェフは、体が資本。
新型コロナが流行する前は、今より20キロありました。フランス料理は高カロリーのものが多く、パスタを40種類、1本1本味見したら、それだけで40本食べることに。必然的に摂取量が増えてしまうんです。仕事が終わった夜中の2時3時に食べることもありましたから、太るのも無理ないですね。
とはいえ、40歳を過ぎ、流石に料理の技術だけでなく、体力も貯金をしないとなぁ、と本格的に筋トレを始めました。部位ごとに、週6日。食事は、基本1回。鳥の胸肉、ゆで卵、ブロッコリーと、ビタミン、たんぱく質、食物繊維をバランスよく食べることにしました。
小学生の息子たちを連れてジョギングへも出かけます。膝が痛いからとジョギングを休んでいた妻は、サンセリテの『歩ひざ王』を飲み始めたら、2、3日で効果てきめん。驚きました。ソフトクリーム屋やランチで食べたいお店を目標に、週に1回、家族4人で10キロ走っています。
念願の独立。やりたいことと売れるものは違う。
独立のチャンスは突然やってきました。今のうちの店でもともと営業をしていたガレット屋さんがニセコに移転すると聞き、お店を見に行ったら、ビビッときたんです。これも直感で決めましたね。
独立にあたってこだわったのは、自分が美味しいと思うものを提供すること。お客様をがっかりさせないこと。そうすれば売れる。繁盛すると思っていた。でも、そう上手くいきませんでした。やりたいことと、売れるものは違うんだと思い知らされたのです。
メディアに露出をしたり、食通の方に口コミを書いていただいたり、メニューも工夫して、「売れるプロデュース」をしました。確かに金銭的には潤いましたが、何か違う。やっぱり僕は、自分がやりたことを、美味しいと思うものを出したい。そんな料理を気に入って、うちの店をまるで家のように感じてくつろぎにやってきてくれる常連さんを大事にしたい。まさに、原点回帰ですね。今は、「知る人ぞ知る店」でありたいと思っているんです。
商売人にはならないぞ。
将来の夢ですか。ゆくゆくは、田舎でレストランをやりたい。横の畑でとれた野菜を使った、自給自足のレストラン。お皿から、何から何まで自分の手でつくってみたいですね。僕は結局、職人の考えを植え付けられているんだと思います。美容師の両親を見て育った経験からも、さまざまなシェフたちと働いてきた経験からも。
「ラヴィ」という店名は、「セラヴィ」というフランス語が、語源のひとつ。「セラヴィ」は「人生」という意味です。お皿の上で“人生”を表現したいんです。商売人にはならないぞ、と思っています。僕が美味しいと思うものを作るんだ、というこだわりはやっぱり捨てられませんね。あ、でも、来年あたり商売上手なことをやっていたら、ごめんなさい(笑)。
外山 夏央
サンセリテ編集室統括局。新潟県生まれ東京都在住。1年の3分の1が雪に覆われる豪雪地帯で育つ。それゆえカラッと晴れた冬空の下で飲むビールが大好物。好きなものを好きなだけ食べて飲みたいがために、31歳にして初めて筋トレを始める。背中の贅肉とおさらばするのが今の目標。